
5大漢方薬(杜仲、鹿茸、冬虫夏草、人参、芍薬)の1つである杜仲(とちゅう)は、中国では古くから強壮・強精剤として用いられてきました。
古代から使われてきた生薬ですが、現代の科学でもその効能が間違いないことが分かってきています。
世間では杜仲の葉を用いた「杜仲茶」の方が有名ですが、こちらは代謝を良くしたり、血圧低下や利尿作用があり、あくまでも健康維持のための健康食品にすぎません。
一方、杜仲は樹皮の部分を使った生薬のことを指し、性機能の衰えたわれわれにとってはこの杜仲(杜仲皮とも言う)の方がピッタリなのです。
この記事では杜仲とはどのような生薬なのか、そして科学的にはどのような薬理作用があるのかについて調べてみました。
杜仲(とちゅう)とは?
杜仲の歴史は非常に古く、古代中国の三国時代に完成した最古の本草学(中国の医薬の学問)の書、『神農本草経』に上品としてすでに掲載されています。
当時の人々はどのような目的で杜仲を利用していたのでしょう?
杜仲、一名思仙、味は辛、平。山谷に生ず。腰脊痛を治す。中を補い、精気を益し、筋骨を堅くし、志を強め、陰下痒湿、小便余瀝を除く。久しく服せば、身を軽くし、老に耐ゆ。
引用元:「神農本草経」
『神農本草経』の中では、杜仲はこのように紹介されています。
鎮痛剤として、あるいは体を強くしたりする目的で用いられたほか、陰下痒湿(陰部の湿疹)や小便余瀝(オシッコが漏れる病気)、「老に耐ゆ」とあるので長寿薬としても利用されたようです。
杜仲は高さ20メートルにも成長する高木の落葉樹である、トチュウ科(Eucommiaceae)のトチュウ(Eucommia ulmoides Oliv.)の樹皮を乾燥させたものです。
トチュウは中国の中南部にまれに自生する樹木なので、その樹皮から作る杜仲は非常に貴重な生薬だったのです。
しかし、挿し木で容易に増やすことができるため、現在では四川省、陜西省、湖北省、河南省、甘粛省などで栽培されるほか、日本でも長野県や広島県、福井県で栽培されています。
トチュウの樹皮をはがすと特徴的な白い糸を引きます。
これはグッタペルカといいゴムの原料と同様の成分で、杜仲樹皮の主な成分でもあります。
その他にイリドイド類、cyclopentanoid類、dilignanglycosideなどの有効成分を含んでいます。
杜仲の効能・効果
古代中国では上に述べたように、鎮痛、滋養強壮、長寿、陰部の湿疹などに用いられていましたが、その後の漢方医学では強壮・強精薬としても有名です。
杜仲は第3類医薬品に分類されるれっきとした医薬品で、現在の利用される効能・臨床応用についてまとめてみると
- 強壮薬
- 強精薬
- 鎮痛薬として、腰痛・婦人の下腹部痛
- 高血圧
などに用いられています。
杜仲は副作用がなく、長期の服用が可能で、他の生薬と配合されてさまざまな目的でも使われます。
ニューゼナ、ゼナゴールド、ユンケルスター、ナンパオなどのそうそうたる精力剤にも用いられていますよ。

杜仲はまれな樹木で幻の生薬であったので、高貴な人しか手に入れることができず、別種のものが出回ったり、偽物も多かったようです。
杜仲の強壮・強精作用に科学的根拠はあるのか?
大昔から先人たちが精力剤として利用し、今なお変わらず用いられている生薬ですから、効能について科学的に解明するまでもないでしょう。
医薬品でもありますしね。
でも、直接的に精力アップやペニスに効く研究があれば、われわれが使う上で心理的にプラスになることは間違いないでしょう。

効くという心理的な期待は実際に効果を左右する力があります。
プラセボ効果の存在がその証拠です。
研究によって効く事実を突きつけられれば、ペニスは否応なく反応するでしょう。
まず、杜仲には精巣の重量を増加させる作用があることがわかっています[1]。
精巣が大きくなればそれだけテストステロンや精子の産生が向上しますから、性機能を向上させると言えるかもしれません。
杜仲の樹皮の成分であるイリドイド類にはストレスによる性行動の低下を防ぐ効果があることが報告されています[2]。
ストレスによる性行動の低下が強く出たものが心因性のEDであると言えますから、それを防いでくれる杜仲の作用はわれわれにとって心強いものですね。
また、樹皮ではなく杜仲葉の研究では、運動トレーニングによる精巣重量の増加、テストステロン分泌の増加、筋中でのタンパク質合成の増加などを亢進させる作用があることも報告されています[3]。
同様の実験を樹皮の投与で調べても、同じような結果が得られています[4]。
これらの効果は直接的に男性機能を高める作用があります。
もともと、筋トレで筋肉を増やすことは精力アップにつながります。
そのことについては以下の記事にくわしく書いています。
つまり、杜仲には筋肉を鍛えることによる精力アップの効果を強めてくれることが期待できるのです。
このように、強壮・強精作用の薬効の実証だけでなく、性機能を高める薬理作用の証拠が揃いつつあると言えるでしょう。
杜仲の副作用はあるの?
杜仲は『神農本草経』の上品(じょうほん)に分類されています。
神農本草経に掲載されている生薬は薬効別に、上品(じょうほん)、中品(ちゅうほん)、下品(げほん)に分類されていて、上品には毒性がなく長期服用が可能な、元気を益し不老長寿のための生薬が選ばれています。
ゆえに、サプリメントのように日常的に摂取しても問題のないものです。
ただし、どんなものも量を過ぎれば毒になりますから、服用量を上回らないようには注意したほうが無難でしょう。
標準的な用量には、けっこう幅があって、1日に3~20gの範囲 で摂取するのがいいようです。

杜仲を単独で強壮・強精作用を狙って使うのであれば15~20gくらいは使ったほうがいいようですね。
まとめ
生薬の中でも手に入りにくいので、”高貴薬”として扱われてきた杜仲ですが、今は栽培されるようになって誰もが飲める生薬となりました。
杜仲は強壮・強精剤として効果が高く、長期に渡って服用しても副作用のない生薬です。
単独で精力剤として用いることもできますが、他の強壮・強精薬とともに用いればさらなる精力アップ効果が望めるでしょう。
参照
1. 呉麗青, 張藜明. 杜仲葉和杜仲皮的薬理実験. 中草薬 , (1986), 17, 15−18.
2. 今井孝司,貴史豊和,井上博之,西山信好,斎藤洋. 連続ストレス負荷マウスの性行動及び学習効果に対するイリドイドの影響, 薬学雑誌,(1988),108,572−585.
3. 曲剛健,布施孝介,田崎洋佑,伊藤朗. 運動雄ラットの杜仲葉抽出エキスの投与が運動雄ラットの筋肥大に及ぼす影響, 筑波大学体育科学系紀要, (1997),20,167−173.
4. 紬剛健,高建十,布施孝介,田崎洋佑,伊藤朗 . 杜仲樹皮エキスのアナボリック効果に関する研究一去勢ラットにおける検討一, 体力科 学,(1997),46,