
一般の人はあまり耳にすることはない「麦門冬(バクモンドウ)」という名前ですが、漢方薬では咳によく効く生薬として有名です。
麦門冬のことを知っている人も、おそらく”咳止めの生薬”という認識しかないでしょう。
実はそれ以外にも効能には、胃腸障害、解熱、利尿などがあり、継続的に服用すれば滋養強壮や長寿にも効くとされています。
中高年の性機能低下は、疲労の蓄積や体力の低下も影響してきますから、体全体を回復させることで精力アップにつながります。
なので、一部の精力剤ではこの麦門冬を原料として含んでいるものもあるのです。
今回は、この麦門冬について詳しくまとめてみました。
麦門冬とは?
ユリ科に属するジャノヒゲ (Ophiopogon japonicus Ker-Gawler)の根の先端付近にある肥大した部分を乾燥させたものです。
植物名のジャノヒゲという名は能面の翁の面(尉:じょう)のヒゲに似ていることから来ているとされています。
中国を中心にヒマラヤ、日本にまで分布する植物で、日本庭園にもよく植えられています。
漢方での利用の歴史は古く、中医学の基礎となる本草学の最古の書『神農本草経』の上品(じょうほん)として収載されています。
生薬は上品、中品、下品の3つに分類されていて、麦門冬の属する上品は、長期に服用しても副作用がなく、滋養強壮や長寿の作用があるものが選出されてます。
当時の中国の人々が麦門冬をどういう目的で用いていたのか見てみましょう。
麦門冬、味は甘、平。山谷に生ず。心腹結気、傷中傷飽、胃絡脉絶、羸痩短気を治す。久しく服せば、身を軽くし、老いず。飢えず。
引用:「神農本草経」
心腹結気とは心窩(上腹部:肝臓のあたり)に邪気が集まっている状態。
傷中傷飽は食べ過ぎによる胃腸障害。
胃絡脉絶は胃の働きが衰えること。
羸痩短気はやせ衰え息も切れる状態を意味します。
長く服用すれば、不老にも効果があるとされています。
どうやら当時(三国時代)は咳止めとしては、使われていなかったようです。
今は主としては使われない、滋養強壮や長寿の目的で用いることをメインにしていたみたいですね。
麦門冬は中国からの輸入が多く、一部日本でも栽培されています。
韓国の麦門冬は同じユリ科のヤブランという植物を用いており、中国では”土麦冬”と呼び品質が落ちます。
麦門冬の薬効成分や効能・効果
麦門冬は厚生労働省から第三類医薬品に指定されている、効果を認められた生薬です。
使用されるジャノヒゲの根は、淡黄色で良く肥った、柔らかく重量のあるものが良品とされています。
麦門冬に含まれる主要成分には次のようなものがあります。
- オフィオポゴニン(ステロイドサポニン、ステロイド配糖体)
- オピオポゴナン(ホモイソフラボノイド)
- オリゴ糖
- 粘液質
麦門冬の生薬としての薬能には次のようなものがあります。
- 養陰生津・・・潤いや冷やす力を強め、唾液を分泌して喉の渇きを取る
- 潤肺清心・・・肺の乾燥した状態(空咳)を改善し、心機能亢進状態を改善
- 肺燥干咳・・・肺が乾燥して空咳が出る
- 虚癆咳嗽
- 津傷口渇・・・津液不足からくる口や喉の渇き
- 心煩失眠・・・胸が苦しく眠れない
- 内熱消渇・・・体に熱がこもり、喉が渇いて小便が出ない
- 腸燥便秘・・・熱や脱水による便秘
- 咽白喉・・・咽喉ジフテリア
薬理作用には次の作用があります。
- 血糖降下作用
- 抗炎症作用
麦門冬は次のような症状や目的に臨床応用されます。
- 元気がない
- 倦怠感
- 不眠
- 滋養強壮
- 脈が弱い
- 便秘
- 鎮咳
- 去痰
- 口の渇き
麦門冬は咳に効く麦門冬湯という漢方処方が有名なので、咳に効く生薬としてかなり有名です。製薬会社の製造する医薬品でも咳止めシロップやドリンク剤への添加が圧倒的に多いようです。あのパブロンにも含有されています。
しかし、上に述べたように麦門冬は意外と滋養強壮効果を持っているのです。
実際に、「ユンケルスター」や「ナンパオ」では滋養強壮効果を狙って麦門冬が含まれているのです。
麦門冬の副作用は?
漢方生薬の中で上品に分類されているものなので、長期の服用でもまず心配はありません。
ただし、乾きを潤す作用の強い生薬なので、痰飲(たんいん)と呼ばれる水分が異常に溢れ、津液が停滞している状態には用いてはいけないことになっています。
津液とは、臓腑中の精や血脈の血を除いた、体を潤す水分(汗、涙、唾液、胃液など)全般のことを指します。
まとめ
麦門冬は滋養強壮から精力アップに効果が期待できそうです。
しかし、勃起機能や生殖機能に直接効果をもたらす類の精力剤ほどの効果はないでしょうから、麦門冬単独で精力剤として使うのは無理があるでしょうね。
他の精力剤と併用することで、体を根本的に元気にしてよりムスコを元気にする、そんな使い方に向いているでしょう。